垂直統合

http://bewaad.com/2007/05/31/138/

中国の自動車産業を巡る考察が面白い。一般的に自動車は垂直統合モデルの代表選手といわれている。末端の部品の設計から完成品の組み立てにいたるまで基本的に各自動車ブランドごとに個別のモノづくりをしているから。

が、中国の自動車会社のやり方を見るに、基幹部品についても内製に拘らず(拘れず?)、複数メーカーを競わせて安い方を使うという方式をとっている。いわゆる水平分業的モデル。中国車の安さの秘訣はここにあるはずだ、と。

この主張に対して、いや。それができるなら日本やアメリカだってとうの昔にそうなっているはず、とか、いやいや。日本やアメリカだと品質の要求水準が高いから水平分業に移行できないんだろ、とかいくつかの考察がある。

主導権はどちらにあるか

ちょっと気になったのは、「デンソートヨタ以外にも出荷してるんだから、日本は水平分業なのでは?」という指摘があるけど、大事なのは「デンソートヨタにもホンダにもマツダにも同じ仕様の製品を出荷しているか」という点な気がする。

インテルは「HPにもデルにも富士通にも同じ仕様の製品」を出荷しているから水平分業なのであって、各社の仕様毎に違う製品を作っているんだったら、単に垂直統合の役回りの一部を担っているに過ぎない。
現状だとトヨタとホンダとマツダでは、エンジンもトランスミッションもサスもすべて自社で仕様を固めて、それに合うように各部品メーカーに作らせているわけで、主導権はあくまで完成品メーカーが握ったままなのであれば、複数社の仕事を受託しているからといって、水平分業とはいいきれない。部品メーカーが主導権を握るような世界になってはじめて水平分業じゃないかな?

(デンソークラスになると電子制御系とかの部品によっては、仕様をデンソーが決めて各社同じ製品を使ってる部分もあるとは思うが、自動車部品全体がそうなっている、というわけではまだないだろうと思う。)

クリステンセン先生流に考えると

単純なコモディティ化の流れで考えると、

  • 産業成熟度1:自動車の性能や品質が顧客の要求レベルに達していない時期は、それらの設計を一社が一気通貫で手がける垂直統合モデルが有効。
  • 産業成熟度2:ある程度性能や品質が上がってくると、要求レベルの最も低い層が、多少性能が落ちても安価な水平統合モデルの製品を受け入れ始める。ただし、依然として大半の層が性能や品質を求めて垂直統合モデルを選択する
  • 産業成熟度3:大半の層が製品の性能や品質に満足するようになり、自動車の選定基準が性能や品質から「価格」のみになる(=コモディティ化)。価格で優位性のある水平統合モデルが有効になる。垂直統合モデルの企業はより上位の市場に移行する。


安直に考えると、自動車業界はようやく第二段階にさしかかったのか、と読める。最も要求レベルの低い層(=中国)で水平分業モデルの製品が受け入れられ始めている。が、大半の層(アメリカ・日本)では従来の垂直統合モデルの品質でないと満足していない。誰も手をつけなかった水平分業モデルに中国メーカーが無謀にもチャレンジした→案外売れた。という流れ。

よって、今後は
→水平分業自体が洗練される(部品をつなぐインターフェースの確立とか)
→性能や品質が上がって日本やアメリカでもこのモデルで満足する人々が増える
→圧倒的な低価格の車が日本に進出→先進国も水平分業に移行
→専業メーカーが力を持つ(エンジンに特化したメーカーなど)
→完成品メーカーの凋落・・・

みたいなシナリオが始まるのかもしれない。
というのは、個人的には見てみたい展開だけど、多分そうはならないのかなとも思う?

成熟しているのになぜ垂直統合のままなのか

上のコモディティ化モデルは、IT産業とか鉄鋼産業では通用したモデルなんだけど、自動車業界にはうまくマッチしないのかもしれない。
まず、自動車業界が今始めて成熟度の第二段階に差し掛かった、という前提がおかしそう。産業が始まって100年くらい経つし、これほど世界に名だたるメジャープレイヤが毎年何兆円もかけて研究開発していて、今までほとんど成熟していなかった(顧客の要求レベルを満たす水準を越えていない)というのはおかしい。

それに、自動車を選ぶ基準ってすでに「価格」が第一優先順位になって久しいと思う。それくらい、性能にも品質にも満足している。日本で言うと20年前くらいから、メーカー間で致命的な性能や品質の差なんてなくなってるんじゃないだろうか。

なのに、未だに垂直統合一本でやってる。なぜか。
水平分業に移れる状態なのに移らない。

理由はいくつか思うけど、まだよくわからない。例えば

  1. 参入障壁が高い。脱サラして車作り始めます、とか言うノリじゃ参入できない。設備投資規模がでかいので新規参入プレイヤが圧倒的に少ない。(そういう意味だと中国メーカーが雨後の竹の子のように登場してるのは業界のルールをぶっ壊すいいチャンスかもしれない)
  2. 製品としてのリスクが高い。何しろ不良品が即人命に関わる。設備投資できる金を持つ常識的な会社であれば、安全性能に妥協はできない。安全性能は若干落ちるが安いから水平分業でいこう!という発想が出にくい。(今中国で作ってる車の安全性能が圧倒的に低くて事故が多発しちゃったりすると、水平分業モデル自体一気に吹き飛んでしまうかもしれない)
  3. イノベーションが緩やか? これは怪しい。水平分業が進むポイントで今までと違う技術を使ったやり方(破壊的イノベーションといわれるもの)が出たりするんだけど、そういうのが出にくい業界なのかもしれない。例えばハイブリッドとか燃料電池とかいう自動車の動力そのものを揺るがすイノベーションについても、既存プレイヤが研究の先頭を走ってる。こういうの他の業界じゃ考えられないのでは?

よくわからないけど、自動車業界がなかなか水平分業に移行しないのは、垂直統合の既存プレイヤが磐石すぎるからってことなのかもしれない。トヨタがすごすぎる、ってだけの話か。

そこに掟破りの中国メーカーがどう殴りこんでいくのか。門外漢から見ると見もの。