ライフサイクル イノベーション
ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション
- 作者: ジェフリー・ムーア,栗原潔
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2006/05/16
- メディア: 単行本
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ようやく読み終えた。
今読むのにとても有益な本。
- イノベーションは収益を伴って初めて意味を持つ→「収益につながる差別化要因となる」ことがイノベーションの目的
- 企業活動を「コア」と「コンテキスト」の二つに分けて考え、「コア」を強化することがイノベーション
- 「コンテキスト」に偏りがちな経営資源を「コア」に振り向ける(慣性力を管理する)ための継続的なしくみが必要
というのが基本のメッセージ。、「コア」はいわゆる「コアコンピタンス」とは違うよ、という点も明確にしている。
この本のメインは14のイノベーションタイプの定義だと思われ、確かにそこも面白かったけど、私にとっては「慣性力の管理」部分が白眉だったので、そこを中心にメモ書き。
「コア」と「コンテキスト」とは?
「コア」=重要業務、「コンテキスト」=どうでもいい業務、という区分けではないところがポイント。「コア」と「コンテキスト」の区別はあくまで「差別化要素となるか」という一点のみで区分けされていて、「成長市場か」とか「収益性が高いか」とかは関係ない。なのでいわゆる「金のなる木」なんかも「コンテキスト」に分類される。
あなたの仕事は「コア」か「コンテキスト」か
普通の企業は「コンテキスト」に経営資源が集まりがち。
- 「コンテキスト」は過去にコアだった部分が多い
- それらは失敗すると高いリスクを伴う業務(ミッションクリティカル)で、かつ「できて当たり前」と思われている
- リスクを回避するためにコンテキストの経営資源量を維持しようとする(これを慣性力と呼んでいる)
この部分はいい得て妙。私の今までの仕事は「差別化要素とはなりにくく」「ミッションクリティカル」な「コンテキスト」業務だったのだ、と深く認識した。そして、そういう仕事は会社の中にあふれている。この点について、自分の周り(金融機関のお客様に向けたシステムインテグレーションの部署全般)を観察するとこんな感じ。
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- コンテキスト業務はかつての花形業種であったこともあり、仕事に誇りを持っている
- 一度評判を落とすと、お客さんが他所に切り替える(スイッチングコスト低い)ので、信頼の維持がとても重要
- 顧客の位置づけの重要度を傘に着て、社内のサポートを「もっと手厚くしてくれ」と叫んでいる
- 社内でもそこそこ力があるので、割とできる人を多く集める(囲い込んで離さない)
- 業績が上向かないのは、投資サイクルの狭間であるためで、上向いたときに備えて部署の要員削減には反対
- 成長性の高い新しい分野の開拓が必要なことは頭ではわかっているし、会社にはそれを望んでいる
- ただし、自分の部署の人間を奪われるのは、大いに筋が違っていると思うので、人は出さない
悲しいけれど、典型的な「コンテキスト」業務であり、「差別化」の源泉である代わりに、典型的な「慣性力」の源泉であったことを認識した。深く反省。
著者が言うように「コンテキスト」業務がどうでもいい業務であるわけではない。それはとても大事な安定的な「収益の源泉」でもあるし、既存業務における顧客の信頼を維持すると言うとても大事なミッションも果たしている。しかし、悲しいことに、もはや自分たちがやっていたことは他社との差別化の源泉ではなかったようだ。
この本に書かれていることを元に、ぜひ読者の会社に適用して考えて欲しい、と書かれているが、いざやってみて自分の部署が「コンテキスト」であると気づいたときの衝撃はなかなか大きいのではないか、と感じた。アメリカのミドル層が「あなたのやっていることはインドに任せたほうがうんとうまくいく」と言われたときの気持ちはこんな感じかもしれない。
「コンテキスト」から経営資源を取り出し、「コア」に振り向ける
で、どの会社にもはびこるこの「慣性力」という力を、うまくコントロールしましょう、というのがもう一つのメッセージ。「慣性力」とは、上記の私の会社で起きているような動きのこと。
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- コアでない部分に経営資源を継続的に投入しようとする力
- 過去の実績の上でうまくやっていきたい、という発想
結果的に、この力のおかげで日々の業務はまわっている。ただし、それに注力するあまり、「コア」に回す経営資源(予算と人材!)がないんだよ。と。
なので
- 慣性力を適切に管理して、コンテキストからコアに資源を移動させる
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- 現在のプロセスの再定義(資源使用量の抑制、人材需要を抑えるように再構築)
- スキルアンマッチを起こさないような人材のリサイクル
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1.は要するにアウトソース。
特に2.が今までうまくいかなかったと言っている。
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- 衰退業務でのレイオフと新業務での新規採用という今までのやり方だと、余計なコスト増加するし、企業文化の維持が難しい
- 製品の流れ(ライフサイクル)と逆方向に人材の流れ(人材のリサイクル)を行えばよい
- 製品は「差別化要素の有無」と「ミッションクリティカル度合」で区切られる4象限の間を移動する(BCGの4象限に似ている)
- ライフサイクルの最後の担当者をライフサイクルの最初の分野の担当者として再教育するのは難しい(今までのやり方)
- が、隣接する象限の間であれば人材の移動は可能(必要とされる要素が近い)
- 1.でコンテキストの必要資源量を減らせて余った要員を逆方向にシフトしていけば新しいコアに十分な人材を投入できる
- 新しいコア担当の要員はその業務を成長させていくので、次第に「コンテキスト」化する
- そうすると、また1.のプロセスの再定義を行い資源使用量を減らす
と言うような流れで、人材をリサイクルさせる仕組みを作れたら最強でしょう、と言っている。
14のイノベーションタイプ
実はこの部分がこの本のメイントピックかと思う。「成長期」「成熟期」「衰退期」の3つのライフサイクルと「ヴォリュームオペレーション型企業(消費者向け大量販売)」と「コンプレックスシステム型企業(企業向け問題解決型)」という二つのビジネス構造に分けて、合計14個のイノベーションタイプを定義している。
一つ一つがどこまで有効なのかは、一読してもよくわからなかったので割愛(重複間もある)。ただし、ビジネス構造の違う企業同士ではイノベーションの成功事例はまったく当てはまらないから、それだけは注意しろ!というのは、とてもよくわかった。(同じ製造業だからと言ってボーイングがデルのサプライチェーンを参考にしても意味がない、ということ)
14のタイプのうちで一番興味深かったのは「成長市場」における「オペレーショナル・エクセレンス」として紹介された「バリューマイグレーション・イノベーション」だ。
- バリューチェーン内の差別化箇所の移動に対応する
これはまさにクリステンセンがイノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)の中で指摘していた「脱コモディティ化」の対応策だ。この本では
- 自社の役割の価値の低下を認識する
- 価値の以降がどの方向性にあるかを予期する
- 価値の移行を競合より先に実施する
の順番でやるべし、とされていて、さらに
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- 競合のない状態で時間をかけて行うべき(秘密裏に進行させる)
- ほとんどの事例は、ビジネス構造の転換(コンプレックスシステム型→ボリュームオペレーション型)という結論に至っている
- よって、コンプレックスシステム型企業にこの対応は向かない(自分の業態を変える覚悟が必要)
- コンプレックスシステム型企業はよりコモディティ化されていない領域に移動する必要がある
と結んでいる。この指摘は興味深い。企業向けの問題解決を売り物とする業種の場合、差別化要素が失われるると、「バリューチェーン内の異動が発生した場合にいち早く向かう」という方法はとり得ず、コモディティ化されていない分野(よりハイエンドな分野など)に逃げ込むしかない、ということだろうか?