銀行の戦略転換―日本版市場型間接金融への道

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少々古いが。同じ著者が最近続編を出している。大きな書店だと平積みされている。
金融市場の勝者―銀行・ファンド・企業、複線化する金融

が、まずは古いほうを読んだ。

著者は元興銀で今みずほ証券の人。現役の金融マン(バンカーとしては元になるけど)が出版して結構売れているというのは珍しいと思う。

内容としては、現在の銀行復活前に書かれているということもあって、日本の金融や社会の構造の中で銀行と言う主体は、いつの間にか割を食わされるようになった、という認識のもと、

  • 銀行による間接金融は企業にとって「負債」か「資本」かわからない性格の資金になってしまっている
  • 企業が破綻するとメインの貸し込みは一番返済順位が低くなってしまうなど、リスクを背負い込みすぎている
  • なのにそれに見合う金利収入は得られていない
  • とはいっても企業融資に代わる収益の柱はまだ育たず、融資からリスクに見合った金利収入を得る必要がある
  • 間接金融(通常の企業と銀行間の相対融資)を市場の風にさらすことが解決策となる
  • 加えて銀行全体で融資・債権・株式などの運用ポートフォリオを常に管理する必要がある
  • これを「日本版市場型間接金融」と名づける

という論旨。

市場の風にさらす手段としては、シンジゲートローンや証券化手法がメインだったけど、クレジットデリバティブなどが紹介されていて興味深かった。クレジットデリバティブの取引が増えて相場観が醸成されると適正金利が浸透するのでは?という見方。

信用リスク自体を売り買いするこのデリバティブ手法自体にも効果があって、ローン債権そのものを転売してしまうと企業とのリレーションに影響がある。「うちの融資債権を他所に回したのか!」ということになってしまう。それに、債権そのものを売ってしまうと融資後のモニタリングをできないことで逆に貸倒リスクが高まったりもする。なので債権はバランスシートに残したまま、貸倒リスクのみを転嫁するという手法。

あと、エクイティ的な位置づけの貸し出しをはじめから「劣後債権」としてそれなりの金利を得るようにコンセンサスを形成しようとか、日本固有である「銀行への信任の厚さ」をなんとか武器にできないか、という銀行への愛がこもった本でもあった。

じゃあ地銀はどうなるのか

本の中でも触れられているけど、大手行と大企業取引は採りうる選択肢も多くていいんだけど、地方経済をそのまま業績に反映してしまうような地銀と地方の企業群はどうしたらいいのかね、というところが肝だと思う。地銀の人自体が、地域の長男坊としてあまりに多くのことを期待されているけど、一歩その地域を出ると無茶苦茶な過当競争に巻き込まれていて、本当は地元のしがらみを断ち切って身軽になりたいと思っているんじゃないか。ただ、断ち切るとあまりに多くの犠牲が出るだろうし、政治的なしがらみとかそういうのも関わってくる。

日本の世の中はこの10年くらいで少しずつ変わってきた。無茶苦茶に絡み合ったつたの壁のような行政の世界も、金融の世界も随分風通しがよくなってプレイヤーも増えていると思う。流れとしては、真ん中がなんとかうまくいったので、やっぱりそれを地方に展開するしかない。1度目のチャンスはこの2,3年だったけど、それをやる前に景気が回復してしまった。次の機会があるとすれば、道州制に移行するようなタイミングだろうか。そのときに、地方によってインプリの仕方が違ってくると面白いなと思う。

たとえば中国地方は過激にやる。とにかくできるだけルールを取っ払ってノーガードの殴り合いみたいな競争をやってもらう。ばたばたと淘汰されていくだろうけど、生き残ったプレイヤーのサービス水準は今よりずっと高くなっているはず。

逆に競争なんていらないという地域があってもいい。非効率だろうと山間部に住みたい人は今のまま住める。民間で採算合わないサービスを自治体が提供する。その代わりそれなりの税率を徴収する。

全国で均一ルールと言うのが崩れてこそ地方が魅力的になるし地域ごとの成長が可能になるんだろうと思う。そうでないといつまでたっても地方は東京に勝てない。地方が独自の道を歩き始めてこそ、そこで生きる金融機関も独自の成長戦略を考えられるんじゃないかと思う。