自動車業界は水平分業化するのか

ホンダに続いてトヨタが営業赤字となって、日本の輸出産業が来年に向けて急な坂道を猛スピードで駆け下りていくことがほぼ確実になった。

ここ2,3年ネコも杓子もトヨタ礼賛キャノン礼賛だった機運が、来年以降一気に沈静化するのかもしれない。

トヨタについて池田先生が興味深い考察をしていた。トヨタのつまづきは自動車業界の垂直統合の限界ではないか、というのが論旨。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/ef3717e9e0e6567129692656b0d8bfd9

すり合わせ型のアーキテクチャは日本的組織の要請で採用されたもので、戦略的な最適化の結果ではない。それは高級乗用車のような補完性のきわめて高い特殊な製品には結果的に有効だったが、情報革命によってすべての工業製品は組み合わせ型に移行しつつある。私の修士論文にも書いたように、要素技術のモジュール化と組織の水平分業化は不可逆の流れである。

去年の夏ごろに書いた話を思い出した。

垂直統合 - cafe@永福

他の業界では進んでいる水平分業がなぜ自動車業界では進まないのか、と言うのはずっと前からの疑問だった。池田先生のいうように、電機やITの世界では、製品が未熟なうちは垂直統合で、性能や品質が十分になってくるとモジュール化が可能となって徐々に水平分業に移行していく。最終的には、部品を市場で調達すれば誰でも完成品を作れるようになる。PCはそうなって久しい。
ところが、自動車の性能や品質にはもう20年位前から大半の人が満足しているはずなのに、自動車業界はいつまでたっても完成品メーカーによる垂直統合モデルのままだった。

そこに中国やインドの自動車メーカーが参入した。がんがん外部委託しまくって安い車を作ろうとしている。自動車だって部品を買ってくれば誰でも作れるんだよ、自動車もこれからはモジュール化なんだよ、と言わんばかりのチャレンジ振りに「自動車業界も変わるのかな?」と注目していた。

というのが、去年から今年の前半までの話。

池田先生は、一連の日本メーカーの失速を見て「これで自動車業界も水平分業煮対応しないと生きていけない」といっているけど、トヨタの今回の失速は、世界的な不景気と円高が主因であって、中国やインドの低価格車攻勢が直接の原因だったわけではない。

タタの30万円自動車のナノについては量産する工場が建たずに未だ市販されていないし、日本の低価格自動車の雄であるスズキは、環境や安全規制の面からナノのような超小型廉価車は主流になり得ない、と言っている。

インドの超廉価車 ナノ…「価格破壊とはなり得ない」スズキ会長 | レスポンス(Response.jp)

ただ、今回の不況が水平分業化のきっかけになる可能性はあると思う。

去年は自動車業界の水平分業が進まない要因として

  1. 参入障壁が高い
  2. 製品としてのリスクが高い
  3. 破壊的イノベーションが部外者から出にくい

と言うのをぼんやり考えていた。最後の一つは裏返せば既存のプレイヤーに隙がない、ということなんだけど、今回の下り坂を通じて、既存メーカーの身売りや再編が起こると、参入障壁が下がるし、平時では受け入れられないようなイノベーションも出るかもしれない。

これまで莫大な資金に裏打ちされた全方位投資によって、イノベーションのジレンマをうまく管理してきた自動車業界(特にトヨタ)が、今回どんな手を打ってくるのか注目し続けたい。