トヨタの強さ

自動車制御、トヨタが標準ソフト開発・IT化加速

トヨタの強さここに極まれり。といった感じ。

OSの規格を策定し、それを自ら開発する。さらに仕様を公開し、アプリケーション開発を広く他社にゆだねる。というのはコンピューターメーカーのビジネスモデルとして数多の成功例を残している。自動車会社はハードの競争からソフトの競争に移行しているといわれて久しいが、ついにその胴元となる基本OSを必要とする時代になり、それを自動車メーカー自体が作ることで競争優位の源を押さえようという動き。

さらに、こちらが面白い。

トヨタのソフト開発、ITが競争の焦点に

トヨタはかねて「自動車に自社が関与できないブラックボックスは作らない」という原則を掲げてきた。このため1989年には本拠地の愛知県豊田市半導体工場を稼働。ソフトの自社開発体制も着々と整えてきた。

ブラックボックスは作らない。というのは、単純明快で実に強力な方針だけど、それをできるのは世界でトヨタくらいしかいない。半導体まで自社で作ってるとは、垂直統合のきわみだ。

が、果たしてその状態をいつまで続けられるのか?

これからの自動車業界に垂直統合がどこまで有効なのだろう。

クリステンセン教授によると、提供する製品やサービスの水準が低くて、ユーザーの満足に応えられていないような市場では、垂直統合モデルが有効だという。すべての部品の設計や組み立てを自社でコントロールすることで、全体としての最適化をやりやすくなって、品質向上につながるからだ。

これは、品質向上に対して顧客が追加コストを払う段階まで続く。という。が、どこかで大多数のユーザーにとって「もう十分だ」という水準に達する。そうすると、さらに「良い機能」「高い性能」を追加してもそれに対して追加でコストを払おうと思わなくなる。

ここが分水嶺となって、以後垂直統合でより優れた製品をいくら発売してもそれに見合う対価が得られなくなってしまう。

それ以降は、垂直統合のメーカーは、各部品を専門に作るモジュール専業業者とそれを組み立てる業者による「そこそこ」の性能の製品にかなわなくなる。という。専業業者は個別モジュールに特化したコンピテンシーを持つし、組み立て業者は垂直統合業者のような投資をせず旬のモジュールを買ってこれるからだ。

今の自動車というのは「もう十分だ」に達しているのかどうか。

環境対応車やWeb環境とのつながりとかいう点では、確かに「まだまだ不満」なのかもしれない。
加えて、自動車には「安全性」という部外者が介入しにくい特殊な要素がある。自動車に何か故障が起これば人命に関わる。しかも耐用年数が長い。数十年にわたって「何かあったときに責任を取る」製造者責任を要求される過酷な業界だ。

それが理由かどうか知らないが、各部品のインターフェースもばらばらのままで、モジュール化という流れが浸透していない。例えば同じトヨタ車でもカローラシャシーエスティマのエンジンを積んだりしたら、動くかもしれないが、間違いなくどこかで破綻を来たす。同じメーカー・エンジンでも互換性はない。「カローラ」という一台の車の各部品が密接に絡みついていて、そうでないと最適さを保てない状態だ。

なので、自動車業界というのはいまだに垂直統合が必要なほど「製品の水準が低い」状態とみて間違いない。

が、それがいつまで続くか。今後もトヨタ垂直統合にこだわるのであれば、自動車作りというハードに加えてソフトウエアのコンピテンシーを持つ必要があるが、1社でその二つを両立できるのだろうか?自動車とソフトウエアでは、市場の足の速さが随分違う。

IBMは60年代にメインフレームのハードとOSの両方を抑えて躍進して、80年代にPCのハードもOSも他社にゆだねたため、大きくつまずいた。が、逆に考えるとそれによってコンピュータは劇的に値を下げ、結果としてインテルマイクロソフトをはじめとする今のIT産業の裾野を何倍にも広げることになった。

自動車業界がメインフレームの時代を彷徨っているのであれば、自社囲い込みは文句なく正しいだろうけど、実は今PCの勃興期にあたるのであれば、他社が水平分業を貫いた時に果たして勝てるのかどうか。この際、思い切ってすべて若者に任せてみて、「次世代の自動車産業の雄も日本から」というのもいい気がするが。甘いだろうか。

成功しても失敗しても、トヨタの「OS開発作戦」は5年後のビジネススクールの教材になるに違いない。

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

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