小泉官邸秘録

小泉官邸秘録

小泉官邸秘録

この時期に読むのはどうかと思ったけど、本屋で見かけたので読んでみた。著者の飯島秘書官は言わずと知れた小泉内閣の立役者。誰もがひるむ強面で小泉さんを陰に陽に支えていたらしい。

小泉さんが首相になってから、行政の権限を総理大臣に集約してトップダウンで政策を決定するようになったらしいんだけど、それはそのまま首相官邸の役割が今までになく大きくなったということ。その官邸を一手に仕切って、大きな混乱もなく、むしろ大成功と呼ばれるくらいの結果を収めたというのは、この人の力量によるところが大きいかもしれない。

読む前は、首相官邸の意思決定の仕組みとか、人事を決める時の予備調査とかの裏話的なことがかかれているかと思ったんだけど、内容としては、小泉内閣の5年半の歩みを淡々と追いかけて、小泉さんのすごさを褒め称えるもの。

ほとんどすべてが成功談として書かれていて、ちょっと思い出話的になってしまっている。

が、それを差し引いても、今までの内閣との違いとか、この時代に小泉という人が登場して決断したことの意味合いとか、苦労とか、そういうものは垣間見える。「痛みを恐れず、既得権益の壁にひるまず、過去の経験にとらわれず」というのをうたい文句に終わらせなかったというのは、常人の成せる業ではなかったというのがよくわかった。

会社の中でも、こういう変革が必要な時期がある。「恐れず、ひるまず、とらわれず」というコピーはとてもよくできていると思っていて、これはピンチになった会社に必要なアクションとしてもそのまま当てはまる。いわば今までのルールを変えよう。ということ。ソニーの出井さんの言葉を借りれば『ルールブレイカー』ということ。(古い)

だけど、これは会社の中の優秀な人にはなかなかできない。優秀で周りから一目置かれていたり、若くして上に引き上げられるような社員というのは、自分自身が今までのルールの中で立場を確保して、上司や同僚との関係を今までのルールの中で築いている。

小泉さんというのは、今までの政治のルールからみるとはみ出しものだった。とりつかれたように郵政民営化にこだわったり、お中元お歳暮を断ったり、地元の陳情に耳を貸さなかったりする。だからこそ、ルールブレイカーになりえた。普通の人なら、自民党をぶっ壊す、といった途端に自分の立場がなくなる。が、この人の場合、党がぶっ壊れても、自分には世論がある、という立場を総理の期間中ずっと変えなかった。当代一の大役者だったんだろうと思う。

本の中で郵政解散の時の演説の効果がいかに大きかったかが触れられている。2005年8月8日といえば、遥夏チンが産まれた次の日だったが、その暑い日の夜に行われた郵政解散を説明する演説なんて、日本人始まって以来の大演説といえるくらいの名演技ぶりだった。天性のアジテーターだったからこそできた芸当だ。

で、その稀代の名優が後継者に選んだのが安倍さんだけど、この人の役回りはかわいそうだ。立場としては、会社の中の優秀な人の一人、という以上のなにものでもない。安倍さんが「自民党をぶっ壊す」とか言おうものなら「お前が言うな!」とそう突っ込みされるだろう。それなのに、小泉さんと同じやり方(トップダウン)と同じ成果を期待されている。土台無理な話だ。ルールブレイカーは続けて二人もいらない。長嶋茂雄は一人で充分だ。本人もそれがわかっているだろうに、それを言う度胸がない。言ったら最後、世論に見放されると思っている。

自分には荷が重かったです、とかいって麻生さんあたりにバトンタッチでもすれば、かわいげがあったんだけど。それができるくらいなら去年の段階で降りてるか。政治家ってかわいそう。