半島を出よ

読み終わった。夏休みの推薦読書にランクインして欲しい一冊。

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)

半島を出よ〈下〉 (幻冬舎文庫)


なんというか、すばらしき村上龍の世界。遠くない将来の日本という舞台を使って、普段自分がやり過ごしているテーマを荒々しく組み合わせて目の前に並べている。

例えばナショナリズムというか愛国心みたいなのを考える時にも、日本人の・・・とか、自分達の・・・とかいうレベルじゃなくて、「あなた自身はどう振舞うのか」という問いを胸倉を掴まれながら迫られるような凄みがある。僕は1週間くらいかけて上下巻を読んだけど、その間何回もこの本に関連する話が夢に出てきた。

北朝鮮の少数の特殊部隊が一瞬のうちに福岡を街ごと制圧してしまう、というストーリーは、一見突飛で興ざめしそうなんだけど、展開のロジックは精緻で、日本人らしいあいまいな決断が彼らをどんどん有利な状況に運んでいくところとか、それを北朝鮮がはじめから予想済みなところとか、ディテールにリアリティがあって、話にどんどんのめりこんでいく。

北朝鮮の部隊というあまりにも生身な暴力をよりどころにした集団というのを見るにつけ、日本は暴力が極度にサニタイズされてるんだな、と気づく。本の中の日本人は暴力を目の当たりにして大抵は思考停止に陥っていた。でもこれは日本に限ったことでもないような気がする。その辺よくわからない。

自分や家族が住む街に軍隊が押し寄せてきたとしても、自分は臆病なので成す術もなく成り行きを見守るしかないんだろうな、と思う。だけど、それは日本がなよなよしてるから、というより、武力による統治を肌で知らない世代が治める国はどこも似たようなものなのではないかとも思う。少数を犠牲にしてでも、国家の主権を維持するための行動をとるべきだ、それが普通の国の常識だ、と村上龍は暗に主張しているように思った。20世紀のスタンダードはそうだったのかもしれないけど、それがいつまでも有効とは限らないわけで、日本には日本のコンセンサスがあってもいいような気がした。